数学的に何がすごいのかということに焦点をあてているのではなく、天才数学者達の人生
に焦点をあてている本であり、著者の文章も良く数学の知識がなくても十分に楽しめるエッ
セイである。全ての人物のエピソードが面白く、関孝和、ワイルズの章を読むと日本人が
如何に独創性があるかを知り勇気が湧いてくる。自分が特に気にいったのはラマヌジャン
という数学者のエピソードである。アインシュタインの特殊相対性理論のように、アイン
シュタインがいなくても数年後には誰かが発見しただろうと言われるようなものを発見し
たのではなく、ラマヌジャンがいなければ百年近くたった現在でも発見されていないとい
う公式群を数多く発見したような大天才であるらしい。天才の話は良く聞くが、このよう
な大天才の話はなかなか聞くことがなく非常に刺激的であった。
著者は実際に天才数学者達の縁の場所を訪れ、そこでのエピソードにも触れられており、
自分もその場所に是非行ってみたくなった。但しガロワの章で語られるパリでの著者の体
験はあまりに非道く、パリにだけは行きたくないと思ってしまった。
著者があとがきで「これら天才を追う中でもっとも胸打たれたのは、天才の峰が高ければ
高いほど、谷底も深いということだった。」と述べており、この言葉が正に印象に残る本
であった。
ちなみにこの本を読む切っ掛けとなったのは、以前NHK教育の人間講座という番組でこの本
の著者である藤原正彦の回を偶然見て内容が面白かったこともあるが、それにも増して藤
原正彦自身があまりにもナイスキャラクターであったことが印象に残っているためである。